リドリー・スコット監督、マッド・デイモン、アダム・ドライバー、ジョディ・カマー主演の史実をもとにした歴史ミステリー『最後の決闘裁判』
控えめに言って傑作で、自信をもってお勧めできる1作です!
本作の感想
10月15日に公開され週末ランキングでは、『燃えよ剣』や『DUNE/デューン 砂の惑星』といった大作の公開と重なり、残念ながら興行収入2500万円の11位と低めのスタートとなってしまいました。
この3作はどれも本格派の大作ですが、『最後の決闘裁判』がひとつ頭を抜けて面白かったです。
ぜひ騙されたと思ってみてもらいたいです。
本作は公式サイトの宣伝文をみると「歴史的なスキャンダルを映画化!衝撃の実話ミステリー。」「実話を元に、歴史を変えた世紀のスキャンダルを描くエピック・ミステリー。」という言葉が並んでいるが、これでは本作の面白さが伝わらない。
非常に残念である。
本作は史実をもとにしてはいるが、本作の面白さは「同じ出来事を3人の主人公のそれぞれの主観の3部構成で描くことでの事実認識の違いの怖さ」を感じられることである。
主観が異なると、同じものを観ていてもここまで見える世界は違ってくる。
史実としては中世を扱っているが、この認識の違いの問題はSNSが発達し、表面的なコミュニケーションが増え本当とは何かがわからなくなっている現代においてより重要になっている。
そのため歴史ものであるが、古臭い印象はまったくなく、現代的な視点から本作を味わうことができるのである。
また、最近は「Me too」をはじめとした女性の性的被害問題への意識が高まっているが、本作ではそれを「夫」「妻」「加害者」の「主観」でみることで問題の根深さを説教臭くならず、映画としての面白さを損なうことなく鑑賞者に問いかけてくるのである。
更に本作の凄さはそれにとどまらない。中世の騎士による肉弾戦を描く映像の圧倒的迫力である!
血が苦手な人でも観られるレベルに抑えているにもかからず、画面から伝わる痛みや肉と肉のぶつかり合いの重量感のリアリティのクオリティが高い。自分が本当にその戦場にいる錯覚に陥る。
この「動」としての戦闘シーンと、「静」としての「人間の憎愛」を描くシーンが交互に繰り返される鑑賞者の感情は大きく揺り動かされるのである。
というわけで必見!
以下ネタバレ含む感想
本作の3人の主観で描くというこで、「事実認識」がどう変わるかという点が非常に面白い。
本作を鑑賞していて「えっ?なんか変」と思ったシーンは実は事実認識の違いで、後からしっかり伏線回収されていくため、伏線回収ものとしての爽快感も本作は伴っている。
例えば、冒頭の戦闘でマッド・デイモンが敵に突進していくシーンで、マッド・デイモンは落馬し敵が迫っているがその敵を何者かが切り捨て突き進んでいく。その後マッド・デイモンは友人であるアダム・ドライバーの窮地を救いアダム・ドライバーはマッド・デイモンを命の恩人と感謝する。しかし、アダム・ドライバーの視点では実は最初にマッド・デイモンを救ったのはアダム・ドライバーであり、実はアダム・ドライバーもマッド・デイモンの命の恩人なのである。しかしマッド・デイモンの事実認識ではそれはなく、あくまで自分がアダム・ドライバーを救ったという意識だけなのである。
また、アダム・ドライバーが ジョディ・カマーに迫り追いかけるシーンでは、ジョディ・カマーはアダム・ドライバーを言葉では拒否しながらも途中でわざと靴を脱ぎ棄ていくのである。そのため言葉では嫌がりながらも誘っているように見える。しかし、ジョディ・カマーの視点ではまったくそのようなことはなく単に逃げている最中に階段に靴が引っ掛かり脱げてしまっただけなのである。
このように最初の主観で見えていたものが、別の人物の主観ではまったく異なる意味となる。もちろん同じ事実を描いているのでまったく同じ共通シーンも多い。その中での違いは大きな意味を持つという構成がまさに「極上のミステリー」として本作を位置づける。
ところで本作ではジョディ・カマーを「レイプ事件」を告発する勇気ある女性として描く。しかし夫が決闘で負けると妻も火あぶりされると知ると、妊娠していたジョディ・カマーは「母」として、「それを知っていれば告発なんかせず、他の女性と同じように黙っていた」と言い放つのである。たとえ「火あぶり」になろうとも真実をつらぬく、とは言わないのである。
つまり、被害者の女性が勇気をもって発言するには、本人の勇気に依存するのではなく、社会制度も整っている必要があるというややこしい話を、セリフ一発で表現する切れ味が見事である。
このように、構成や映像も見事でありながら、細部に至るところまで作り上げた本作は間違いなく傑作である。
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