『クララとお日さま』を読んだ。
著者のカズオイシグロは、日本人の両親を持つが、イギリスで育った日系イギリス人であり、原作はもちろん英語。
1989年には英語圏最高の文学賞とされるブッカー賞、そして2017年にはノーベル文学賞を受賞した世界最高水準の小説家である。
そう聞くと堅苦しい難解な小説を書くのかな、と思うかもしれないが内容はわかりやすく、ファンタジーで読みやすい。村上春樹とイメージがダブるので、村上春樹が面白いという人は間違いなく好きだろう。
読みやすさは、もちろん原作での素晴らしさもあると思うのだが、カズオイシグロの著作の翻訳を一手に受けている土屋政雄の日本語が良いということもあると思う。素晴らしい翻訳者と出会うことの重要さを物語る。淡々とした文章でありつつも、美しく、それでいて飽きさせない見事な翻訳です。
『クララとお日さま』はノーベル文学賞受賞後の初作品となり期待も大きかったと思いますが、その期待にしっかりこたえた作品です。
内容は、人工知能をもった人工親友である「AF」と、この購入者(まあ実際に買うのは母親ですが)である少女の成長期における心温まり、そして切ない交流を中心に描かれます。
本作は、人工知能であるクララの目線でのみ物語が語られるため、作中には説明が一切ない言葉が多く登場しますが、それにより逆にファンタジーな世界が本当にそこにあるかのようなリアル感を与え、物語をより際立たせます。
その世界に存在する人工知能であるが故の、合理的ではあるが純粋な友情が、あまりに美しくも悲しくあり、誰しもの心を打つ、間違いなくお勧めの一冊です。
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